サイコ・ゴアマン

洋画
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『サイコ・ゴアマン』レビュー

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とある日曜日の午後6時。

予定していた用事がすべて済んでしまい、ぽっかり空いてしまった空白の時間。どう過ごそう?

平日の今頃であれば、会員となっているサウナで汗を流しているころ。しかし、その日は人と会う約束があったために、すでに午前中にサウナを利用済み。この知らない街の居酒屋へでも飛び込むか、家に戻って配信映画でも観るか…?

いや、待てよ。そうだ映画を観に行けばいいのか! 自分も映画ライターの端くれなのだから、こんな時間こそ映画を観なければ! 映画を観ること自体は収入があるはずもなく、むしろ出費。なので映画鑑賞そのものが仕事とはいえないが、普通の商売で言えば「仕入れ」のようなもの。そうだ! 仕入れに出掛けよう!

しかし、知らない街。果たして映画館というものが身近にあるものであろうか? スマホでググる。便利な時代になったものだ。片手で欲する情報を得ることができるのだ。

なんと比較的近くに映画館があるではないか! 徒歩で十五分ほど。歩くことは好きなので、ウォーキングを兼ねてとぼとぼと歩み出す。

雑居ビルの中に入った小さな劇場。まるで隠れ家? はてさてどんな作品を上映しているものか? 聞いたことのないような作品のポスター、インディーズ作品も多数上映しているようだ。

この時刻に観られる作品は邦画と洋画の二択。どちらにしよう?

ポスターを凝視する。邦画の方は、ある若い女性の奮闘記のような作品。なんか感動的だ。これを観たら明日もがんばれそうな気がする。

一方、洋画の方は、奇妙なモンスターが中央に写ったSF作品。「宇宙人襲来! 地球の未来は少女の手に託された-」……まあ、ありがちな安っぽいコピー。

しかし、ポスターの下部に遠慮気味に書かれた斬新なコピーに目を見張った。

「無敵だった子ども心が、一大スペクタルと化し、近所中で燃え上がる、SFゴアスプラッターアドベンチャー!」

『SFゴアスプラッターアドベンチャー』聞いたことのない造語。SFゴアスプラッターとはいったい? 『近所中で燃え上がる』?

感動の邦画とSFゴアスプラッターアドベンチャーの洋画、天秤に掛ける必要もない。今の自分に感動など不要なのだ! 今の自分に必要なのはSFゴアスプラッターアドベンチャーなのだ!

うん、これにしよう! ところでSFゴアスプラッターアドベンチャーってなんだ?

心を決めた私は、恐る恐る劇場内に足を踏み入れた。男性、いや、そんな言葉さえ不釣り合いだ。おっさんだ! おっさんが四人、散り散りばらばらに座っている。私が五人目。上映開始まで十分ほど、仮にこのあと観客が入場したとしても、きっと総勢十人に満たないであろう。そして、入場してくるのは、きっと「おっさん」であろう。

いったい自分はなんという作品を選んでしまったのであろう…。いささか不安になる。日曜日のゴールデンタイム、ここにいるおっさんたちは、なぜこの作品を選んだのであろう? この作品のことをどこまで知っているのであろう? 期待よりも様々な疑念が渦巻く。

自分はこの作品に対しては予備知識ゼロ。ポスターだけ見て、勢いで決めてしまった。もう逃げられない、観るしかない。そうこうしているうちに、劇場の照明が落とされた。いよいよ始まる…・…。

……

人生において、黒歴史という拭いきれない過去を持つ者も多いであろう。その内容は様々である。人によっては良い記憶であっても、別の人にとっては悪い記憶の場合もある。

その日、オレは新しい黒歴史の1ページを手にしてしまった…サイコ・ゴアマン…なんか、もう……。

また、鑑賞後、ある特定条件の人に伝えたくなった。その特定条件の相手とは、一人っ子の男性、または男兄弟ばかりの中で育った男性だ。彼らは、一度くらいは「妹が欲いたらなぁ」なんて願望を持ったことがあるはずだ。しかし、伝えよう! この作品を鑑賞すれば、妹なんていなくて良かった! と確信するはずだ!

きっと“SFゴアスプラッターアドベンチャー”とは、【妹コワい!】という恐ろしいメッセージが刷り込まれているのでは! そんなことさえ思ってしまうほど、サイコパスな妹の登場だ!

さて、前置きがかなり長くなってしまいましたが、ようやく作品の論評です。

ストーリーは、いたってくだらない。クレージーボールという謎のゲームを勤しむ少年とその妹ミミ。負けた少年は罰ゲームで地中に埋まることになる。そのため家の庭を掘っていたら、宇宙最悪の悪魔が封印されていた物体を見つけ、偶然封印が解けてしまったんだけど、その封印のメダルをミミが手に入れ、宇宙最悪の悪魔を操ることができる。そして、蘇った「名も無き悪魔」を退治すべき、宇宙の神々テンプル騎士団が立ち上がり……、というツッコミどころ満載な作品。

タイトルの『サイコ・ゴアマン』とは、蘇った「名も無き悪魔」にミミが付けた名前。なんてシュールなネーミング!

登場人物は、ミミとその兄。そして、どこの国の文化圏であってもダメ親父と認定されるであろう父グレッグ、母親のスーザン。そして、兄妹の友人であり、ある意味このドラマの中でもっとも最悪な結末を迎える友人アラスター。そして、複数のチープなクリーチャーたち。中には日本語を話すクリーチャーも!

妹ミミを初め、その他の登場人物は名前があるのに対して、兄は少年としておこう。その理由? ふふ、それは観てからのお楽しみに! 

言っておきますが、よくある「優しい妹が正義感を盾に世界を救う!」なんて、鉄板ストーリーではありません。とにかくこの主人公のミミが……、もう唯我独尊状態。コイツにはコワいモノはないんか! と、脳内でツッコミ、妹いなく良かった……と安堵する。

鑑賞中、「これは日本が誇る特撮の○○レンジャーか?」、「オレは今何を観ているんだ?」と戸惑いながらも、シュールなギャグに失笑している自分を恥じる。

こんなサイコな作品を造ったのは、スティーブン・コスタンスキ監督。誰? 調べてみました。どうやら、メンバーたった5人でなるカナダが誇る天才過激映像集団【アストロ6】の一人で、すでに2本の作品を世に放っているお方のようです。

天才過激映像集団【アストロ6】……もうねぇ、これだけでお腹いっぱいになりそう。しかも、この連中、フェイク予告編を得意としている……って……、そんなん特技になるんかい! ちなみに【アストロ6】のリーダーは、本作で世界一のダメ父親グレッグを演じたアダム・ブルックス。

特撮もCGに頼ることなく、その昔憧れたレトロなアナログチックな手法をとっている。ラテックス満載の描写、日本特撮が誇る着ぐるみクリーチャーなどにこだわっているところも自己満足感に満ち溢れている。

ここで私見を。この作品は地球征服などのSFホラーなんて観点はどうでもいいのです。主人公ミミという少女のサイコパスな過激ぶりこそが見所なのではないでしょうか! すべての役者もクリーチャーも食ってしまった彼女こそがこの映画のすべてであると言っても過言ではないでしょう。

ちなみにミミ役のニタ=ジョゼ・ハンナは、映画初出演。恐ろしいのは、本作において役作りをほとんどしていない、という。こんな過激な妹がほぼ素だと思うとマジでコワい。

長くなりましたが、そう、この作品は、観客を楽しませることなど微塵もない! 制作した自分たちが楽しむことを優先させるという、中2病的なものだったのです! よってこのような作品を観賞してしまった黒歴史を1ページ追加!

因みにサイコ・ゴアマンの描写は、70年代の特撮ドラマ『ロボット刑事K』と80年代の『ザ・キープ』(マイケル・マン監督)に登場する魔神を足して2で割ったような感じです。

☆…採点不可。

再鑑賞…DVDが出たら欲しいかも。未見の方々にぜひ、お勧めしたい作品である。

 

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