「･･･そうじゃない･･･」、「･･･ソウじゃない･･･」、「･･･ＳＡＷじゃない！」
鑑賞後、脳内にこの言葉が何度も何度もスパイラル再生されていました。
そう！ ソウ！ ＳＡＷ！ これは『ＳＡＷ』ではないのです！
まだ無名の第一作目から全作品を劇場で鑑賞してきたヘビー信者の筆者にとっては、本作は完全な別作品だったのです。
邦題は『スパイラル：ソウ・オール・リセット』。副題となる『ソウ・オール・リセット』とは？ リセットどころか、“バッタもん”やん！ と心の叫びを抑えるのが精一杯でした。
原題は、『SPIRAL : FROM THE BOOK OF SAW』。副題の『FROM THE BOOK OF SAW』は、『ＳＡＷを参考に』とでも和訳しましょうか。
要するに、『ＳＡＷ』シリーズの時間軸を持つ世界観の中にある舞台ということなのです。10年前に「ジグソウ」という凶悪犯がいた、その模倣犯が現われたという設定なのです。そう、ソウ、ＳＡＷ，“バッタもん”の犯罪ドラマなのです。
もちろん、観賞前の期待値はＭＡＸ状態でした。なぜなら、監督がダーレン・リン・バウズマンだったからです。ダーレン・リン・バウズマンといえば、『ＳＡＷ２』から『ＳＡＷ４』を監督したお方なのです！ リー・ワネルとジェームズ・ワンという無名の若者二人が創り上げた『ＳＡＷ』をシリーズ化させた監督なのですから！ その彼が『ＳＡＷ』の新章をつくると耳に入れれば自然と期待値は上がるのも無理はありません。
しかし、残念ながら、本作は世界線で、過去にジグソウの犯罪があったことを示唆するだけだったのです。『ＳＡＷ』サーガ、『ＳＡＷ』ユニバースというほど繋がりもありません。あくまでも『ＳＡＷ』を参考に･･･程度です。だから、思い切って『ＳＡＷ』と切り離して語らせていただきましょう。
ということで、『ＳＰＩＲＡＬ』。主演は、クリス・ロック。アメリカでは有名な天才コメディアン。『リーサル・ウェポン４』などでもお馴染みですね。そもそも本作の立ち上げは、彼が発端でした。『ＳＡＷ』を制作した映画会社ライオンズ・ゲートの副社長とロックとの共通の知人の結婚式で、ロックが『ＳＡＷ』への熱い思いを語り出したところから、この企画が生まれ始めたのでした。
式の場で、ロックは『ＳＡＷ』のモノマネ寸劇をし、話題が盛り上がるうちに「もう一度『ＳＡＷ』を創らないか？」という会話から実現したものでした。まったく世の中は、いつ何が起きるか分からないものですね。ロックは主演と製作総指揮を兼ねて、現場でもアイディアを積極的に出したと言われております。
もちろんコメディは封印。シリアスな演技に徹しています。ロック自身は、セリフの中に笑いの要素を加えたとありますが、アメリカン・ジョークっぽいセリフに、日本の観客にはさほどウケはなかったようです。まあ、アメリカ人にとっては、ロックがシリアスの演技をしていること自体がウケるのでしょうが･･･。
さて、そのロックの役どころは、署内で孤立しているベテラン刑事ジーク・バンクス。孤立した理由は悪徳警官を密告したため。そんな正義感の強い孤独のヒーローに、ある日、研修中の新米刑事ウィリアム・ジェンクが相棒として配属されます。
ウィリアムはジークの父親マーカス・バンクスに憧れ刑事になったのですが、ジークは、「自分は父親とは違う」と素っ気なく答えることで、父子間で何かあったことは勘づきます。
そして、ストーリーよりも、ラストのどんでん返しよりも、何よりも最も驚いたのは、超が付く大物俳優サミュエル・Ｌ・ジャクソンが出演したことでしょう。サミュエル・Ｌ・ジャクソンは、ロック演じるジーク刑事の父親であり、サウスメトロ署の伝説的な前警察署長。今は引退して隠居生活という役どころ。
彼が現場に入るだけで、スタッフが緊張しだすというオーラを放っていたと聞きます。出演シーンはさほどないので、現場入りは数日程度と思えるのですが、やはり存在感は重厚です。
そして、観賞中に感じたのは「サミュエル・Ｌ・ジャクソンは、サミュエル・Ｌ・ジャクソンである」という何の工夫もない感想しかありません。特別な役作りをしている訳でもないのに、この役はやっぱり彼しかいないよなぁ、と思わされるのです。
ストーリーの中では、決して仲の良くない父子ですが、息子のために頑固オヤジがひと肌脱いで、“ジグソウもどき”を征伐にしに行くのですが･･･。
さて、ストーリー前半でジークに新人刑事ウィリアム・シェンクが配属され、よくある二人の刑事というバディ作品の体を為すのですが、残念ながらこの役者マックス・ミンゲラに華がない･･･。役者の他にも、脚本、監督、製作など多才な方のようなのですが･･･。
バディ映画といえば、第一作目『ＳＡＷ』も、ダニー・グローヴァー演じるタップ刑事とスティーブン・シン演じるシン刑事のバディが登場しましたね。『ＳＡＷ』では、シンがジグソウのトラップで殺害され、タップ刑事が復讐鬼となり、ジグソウを追い詰めていきました。ちなみにダニー・グローヴァーと言えば、『リーサル・ウェポン』シリーズが有名ですがクリス・ロックも出演していたことが因縁めいていますね。
先述したように、黒人の先輩刑事と白人の後輩刑事のバディは、『ＳＡＷ』をリスペクトしているようにも思えますが、正直製作者の意図は分かりません。また、『ＳＡＷ』では、シン刑事が殺害されましたが、果たして本作では･･･？ ご自身でご確認ください。
『ＳＡＷ』の犯罪の根本は、命を粗末に扱う者に、命の大切さを知らしめるため、痛いお仕置きをするというものでした。しかし、今作『ＳＰＩＲＡＬ』では、なぜか狙われるのは警察官ばかり･･･。そして、ヒントはいつもジーク刑事に送りつけられる。その意図は？
なぜ、友人である刑事が殺されたか？ サミュエル・Ｌ・ジャクソン演じるパパの行方は？ 新人刑事の行方は？ 新しく配属された女性署長の安否は？ やがて点と点が一本の線になっていきます。これこそ推理ミステリーの王道。そして、姿を表わす真犯人！ 犯人はジークに仲間にならないか？ と誘います。
ここまで読むと、「おお、これは面白そう！」と思われますが、しかし残念ながら『ＳＡＷ』信者にとっては･･･浅い。この程度の展開やどんでん返しは、読めてしまうのです。他の方のレビューも読ませていただきましたが、やはり、「真犯人すぐ分かった！」という内容のものも多く見られました。「ＤＮＡ鑑定しろよ！」というまっとうなご意見も多くございました。
そして、何よりも最大の失敗の原因は、「続編ありき」で製作していることでしょう。鑑賞後の余韻がないのです。シリーズ化というものは、見終った後に妙な余韻に浸り、「えっ？ この続き･･･気になる･･･」と自然発生するものであり、強制的に与えるものではないと思うのです。
初めて『ＳＡＷ』を観たとき、自分を含め、エンディングのショックで観客が席を立たなかった、いや、立てなかったことを覚えています。これが余韻というものなのでしょう。
「続編ありき」で製作された本作では、余韻もなく、かといってスッキリ感もない、中途半端な「おい、終わりかよ」というエンディングでした。果たして、目論み通りにシリーズ化されるかどうか･･･？
総括です。ストーリー展開が浅い、サミュエル・Ｌ・ジャクソン以外、キャストに華がない。だから、余計にサミュエル・Ｌ・ジャクソンのオーラが目立ってしまって、キャスティングがアンバランス。どんでん返しというほど意外性のある結末とも言えず、よってトホホ映画認定とさせていただきます。
再観賞は「なし」。☆一つ未満･･･ということで。
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